1. はじめに:なぜ“プレー知識”を取り上げるのか
「もっとプレーを理解してほしい」
これは多くの指導者が、試合中やトレーニング中に感じる言葉ではないでしょうか。
選手が技術的には優れていても、適切な判断ができない。その背景には、「プレー知識」の欠如があるケースが少なくありません。
私自身、スペインで指導や分析に関わる中で、技術や走力よりもまず「プレーそのものをどう理解しているか」が、選手の質を大きく左右することを実感してきました。
この記事では、指導者・分析者としてまず押さえておきたい「プレー知識」とは何か、そしてなぜそれが重要なのかを、実例も交えて解説していきます。
2. 「プレー知識」とは何か?
プレー知識とは、サッカーのプレー中に起こる状況を理解し、適切な判断と行動につなげるための知的な基盤です。
選手がただ動くのではなく、「なぜそのプレーをするのか」を説明できる力とも言えるでしょう。
たとえば、2対1の場面を考えてみましょう。
この場面で、ボールを持っている選手がどのようなプレーを選択すべきかは、状況によって異なります。
- 相手DFの位置と動き
- 味方選手のサポートの角度とスピード
- ゴールとの距離や角度
- プレッシャーの強さ(時間的余裕)
これらを瞬時に観察し、「運ぶ・パスする・引きつける・仕掛ける」などの選択肢から最も適切なものを選ぶ――
その判断力のベースがプレー知識です。
スペインではこのような状況(2対1)を「fijar(フィハール)=引きつける」「dividir(ディビディール)=分断する」といった概念で教えます。
*フィハール・ディヴィディールに関する記事はこちら。
これがプレー知識に基づいた実行です。
このように、プレー知識は選手が指導者から教わるべき「知識」であり、それをプレー中に活かせるかどうかが、選手としての評価に直結していきます。
3. サッカー指導におけるプレー知識の役割
■ 数学の「公式」とサッカーの「プレー知識」
サッカーは、いくつもの事象が一度に起こるスポーツです。
「相手の位置」「味方の動き」「スペースの変化」「ボールの位置」など、多くの情報が同時に存在します。
この複雑さは、数学の文章問題に似ているとも言えます。
では、数学において公式を教わっていない状態で、その文章問題を解くことができるでしょうか?
時間をかければ、何とかできるかもしれません。しかしサッカーでは、判断に時間をかけてはいられないのです。
だからこそ、選手には「状況に対する“公式”」が必要です。
この“公式”こそがプレー知識なのです。
■ 実践の中での「公式」の例
以下のような原則も、プレー知識という“公式”の一部です:
- 攻撃時: Ocupar espacios(オクパール・エスパシオ)
→ 適切な位置と距離でスペースを埋め、ボール保持とパスコースの確保につなげる。 - 守備時①: No saltar al penúltimo(ノー・サルタール・ア・ぺヌルティモ)
→ 自分の背後に相手選手がいる状態で前に飛び出せば、背後にスペースを与えてしまう。 - 守備時②: Temporizar(テンポリサール)
→ 数的不利な状況で相手の進行を遅らせ、味方の帰陣を待つ守備。
※これらの原則は、第2章の別記事でより詳しく解説していきます。
■ プレーモデルとプレー知識の関係
混同されがちですが、「プレーモデル」と「プレー知識」は異なります。
- プレーモデル: チームとしてのプレー原則や狙い(例:ボールを奪ったら素早く前進する)
- プレー知識: その原則を実行するために選手が身につけるべき判断力や状況認識
どれだけ戦術が優れていても、それを理解し、判断し、実行する知識がなければ意味がありません。
指導者は、プレー知識という“理解の道具”を選手に与える存在であるべきです。
プレー知識とは:
・選手にとっては「状況判断の公式」
・指導者にとっては「サッカーを教えるための言語」
「どう動けばいいか」ではなく、「なぜそう動くべきか」を伝える。
それこそが、プレー知識を活かした指導の本質です。
4. まとめ:プレー知識を学ぶ第一歩を踏み出そう
サッカーは、走る・蹴るだけのスポーツではありません。
一瞬ごとの判断が連続する、極めて知的なスポーツです。
そしてその判断を支えるのが、プレー知識という“目に見えない武器”です。
それを選手に教えることができるかどうかが、指導者としての大きな価値となります。
まずは身近なプレーを観察し、「なぜこのプレーが選ばれたのか?」という問いから始めてみましょう。
プレーを“見る目”が育てば、自然とプレー知識も蓄積されていきます。
次回からは、今回の記事の例で紹介したような、より具体的なテーマにフォーカスし、
現場で使えるプレー知識を解説していきます。
お楽しみに!
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